「おでこ広告」世界のおもしろマーケティング | ミッシェル・グリーン

「おでこ広告」世界のおもしろマーケティング

カテゴリー:マーケティング
2015年9月28日

たまには気分転換にイギリス生まれの面白いマーケティング手法を紹介します。おでこ広告(Forehead advertising)と呼ばれる手法はロンドンの小さな広告代理店のエージェントであるジョン・カーバーが発案したゲリラ・マーケティング(常識に囚われない小規模なマーケティング)で、その名の通り、人間のおでこにシール刺青で広告を載せるというものでした。

一日に3~4時間は人と接することのある大学生を対象に、時給4.2ユーロ(約520円)でこの「おでこ広告」を行ったのです。シャワーはOKですが、額をこすったりするのはNGという条件だったそうです。

 

おでこにマーケティングのエリート達が飛びついた

この一見奇妙なマーケティング手法を、ウォール街の雑誌は新しい広告だと賞賛しました。大企業もこの「おでこ広告」を取り入れようと行動します。2004年にはトヨタも北米の若者市場に向けて販売されたサイオン・tC(北米におけるトヨタ・セリカの後継車種)のマーケティングに取り入れられ、おでこに「サイオン」「サイオン・tC」「$16465(サイオン・tCの値段)」と書き込むキャンペーンを行いました。

世界のトヨタが、セリカの後継車種という大切なモデルのマーケティングにおいて大真面目に「おでこ広告」に取り組んだのです。

 

色んな意味で頭を使う

当時ジョン・カーバー氏が取り組んでいたのはたばこの広告でした。日本でもそうですが、イギリスでもたばこの販売、広告には多く制限があります。小さな広告代理店に与えられた予算も少なく、どうすれば多くの人に注目してもらえる広告マーケティングについて日夜考えていました。そして頭を使って使って使い尽くして思い当たったのが「頭を使う」広告でした。

おでこに刺青をして広告するというアイディアは、厳しいたばこの広告規制もすり抜けることになり、当然のことながら政府当局から目をつけられる可能性もありました。そのリスクを飲み込むだけの価値がおでこ広告にあるのか…カーバー氏は、それだけの価値があると判断しておでこ広告の実施に踏み切ります。

結果、すぐにケーブルテレビでおでこ広告について取り上げられ、ロンドン周辺の広告代理店はカーバー氏のアイディアに驚き、賞賛することになりました。

 

どんどん広がるおでこ広告

カーバー氏の成功の後、おでこ広告はイギリスだけでなく、ヨーロッパの他の国々やアメリカでも実施され、世界に広がっていきます。

アメリカ、ネブラスカ州の若者であるアンドリュー・フィッシャー氏は、自分の額に広告を入れる権利をネットオークションで出品しました。「30日間、おでこの広さはアメリカ人の平均程度、社会的道徳に反しない内容」という条件で出されたその権利は、すぐに100ドル以上に価格が上がり、30社以上の入札の末に、なんと37,375ドル(約450万円)もの価格で落札されました。フィッシャー氏は一躍脚光を浴び、「おでこガイ」としてアメリカでは広く知られるようになります。

フィッシャー氏は、このとき得たお金を大学の学費にあて、グラフィックデザインの勉強をしたそうです。

 

最近では、おでこ広告はさらに上の領域に進んでいます、文字通りの意味で。カリフォルニア州に住む女性テリー・ガードナーさんは、頭全体を広告にするマーケティングを行いました。彼女は、自分の髪をカットし、後頭部に「ニュージーランド航空」の広告を表示したのです。

他にも、まぶたにシール刺青を行い、道行く人にウィンクすることで広告を表示するというキャンペーンも実施されました。おでこ広告が登場して10年以上たちましたが、2015年になった今でも新しいカタチのおでこ広告を行っている方々がいます。

 

おでことマーケティング

おでこに広告を刺青する。このマーケティングが成功したのはただ奇抜だったからというわけではありません。奇抜で型破りな方法でありながら、ソーシャル・マーケティングの手法に則っているからだとマーケターは分析しています。

おでこ広告は、一種の看板広告のように見えます。人目につくところに広告を配置するのですから手法としては、バスや電車の側面に広告を描く(ラッピング・カー)手法と同じ原理のように思えてしまいます。おでこマーケティングの最大の特徴が、広告を掲載する対象が「人間」であることです。もちろん、多くの人の目を惹きつける奇抜さや、話題性も重要な要素ですが、それだけでは成功した理由を説明できません。

広告は多くの人に広告主に対して興味を持ってもらうことが目的です、そのためには多くの人に見てもらうことと、特に興味をもつであろうターゲット層に見てもらうことが大切です。そして見てもらうには、人間が行動する場所に広告を設置する必要があります。

人の行動する場所に一番ぴったりと寄り添える存在は、やはり人です。おでこ広告を描かれた人は、普通に生活しているだけで、人が集まる場所に自分から自然に移動します。その上、広告について聞かれたら返答してコミュニケーションを取ることもできます。おでこ広告は社会(ソーシャル)に溶け込んだマーケティング手法と言え、それが成功した要因なのでしょう。

 

失敗を恐れず実行すること

おでこ広告は成功しましたが、カーバー氏は絶対に成功すると確信しておでこ広告を実行したわけではないようです。相談した友人からはバカバカしいと笑われたこともあったと言っています。

おでこ広告を行う方々も愉快なコミュニケーションだけではないようで、おでこ広告に参加し、自分のおでこに広告を描いた一人であるロンドンの写真家の卵であるスチュアート・チャールズは、「半分の人は喜んでいたし、楽しそうに笑っていた。でも、もう半分の人は私のことを無視した」と言っています。

そして、写真家仲間の数名は「お金のためにそこまでするのは不快」と非難の視線を向けたそうです。チャールズはその夜、広告代理店に戻りおでこを洗い流すため契約を破棄しました。

残念ながら、おでこ広告は誰からも受け入れられる結果にはならなかったかもしれません。カーバー氏に対して最初に指摘した友人たちのようにおでこに広告するなんてバカバカしいと思う人もいたのですが、多くの人が「面白い!」と感じたのはおでこ広告が成功したことから事実から分かります。

 

人には好みがあります

誰かの「好き」が他の人にとっての「嫌い」であることは珍しいことではありません。何かをアイディアを思いついた時、こういう層には届かない、こういう層からは批判がでると予想できてしまうこともあるでしょう。周囲の人間からも、それは上手く行かない、無謀だ、バカバカしいと言われることがあるでしょう。彼らの言うことが正しいこともあります。

世界で成功したおでこ広告も、刺青に好ましいイメージが無い日本では成功しなかった可能性が高いと分析されています。

ですが、それでもおでこ広告は成功しました。成功する要因にソーシャル・マーケティング的な理由がありましたが、それもカーバー氏が前例のないおでこマーケティングに踏み切ることがなければ成功はありえませんでした。

ビジネスに失敗はつきものです、時に賛否両論のアイディアを実行に移すことが、新しいイノベーション(革新)につながるかもしれません。もちろん、失敗した場合の損失を飲み込めるかどうかもよくよく考慮すべきでしょうが…。

失敗する可能性も飲み込んで、失敗することを恐れないその先に誰も思いつかなかった成功があるのかもしれません。

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